2018年の4月にソロでマッターホルンを登った筆者が、マッターホルン登山の難易度について、実体験を元に紹介します。
一度観光ついでに軽い気持ちで挑戦したらみごとに敗退して、日本でトレーニングを積んで再度挑みました。
マッターホルン登山の難易度は?
世界中でおそらくエベレストの次に有名な山であるマッターホルン。
その美しいピラミッドの頂に立つことは、登山を趣味としている方なら誰しも一度は夢見たことがあるのではないでしょうか?
エベレストのように入山料だけで100万円以上もかかったり、酸素ボンベを担いで登るような山ではなく、一般の登山愛好家の方でも十分に登頂のチャンスがあるのがマッターホルンです。
マッターホルンを登頂するために必要な体力や技術、その他の要素について【ガイド付き登山の場合】【数名のパーティーを組んだ場合】【ソロの場合】に分けてそれぞれ書いていきます。
私はソロで登ったので、ソロについてが一番確実な情報になりますが、その他の場合も自身の今までの経験から、最低限これぐらいは必要だろうと思われるものを書いていきます。
マッターホルン登頂に必要な体力
まずはどの場合にも必要とされる体力について【行動時間】【集中力】【高度順応】という重要な3つのポイントに着目して解説していきます。
必要な行動時間
一般的に、一番スムーズな【ガイド付き登山の場合】においても、中腹のヘルンリヒュッテ(hornlihutte)から山頂の往復で8時間程度かかると言われています。
ここで重要なのが、ほとんど休憩なしで、8時間ということです。
登山を趣味としている方なら「なんだ、8時間くらいなら普段の登山と変わらないな」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、自分のペースで歩きながら、好きな時に好きなだけ休みつつ進む8時間と、常に時間に追われて歩き(登り)続けながらの8時間は全く別物です。
ガイド無しの場合は、さらにルートファインディング(正しいルートを探すこと)で時間がかかりますし、もし道を間違えたら、正しい道に戻るのにも時間がかかります。
単純に【8時間行動】の登山という目安で捉えてしまうと、マッターホルンに登頂するのは難しいです。
ガイド付き登山の場合は、4時間以内に山頂にたどり着けなければ下山を開始すると言われています。
ガイド無しの場合は、自分たちの裁量で、より多くの時間がかかっても登山を続けられますが、明るくても道を間違えやすいので、暗くなってからの行動は特に気をつけましょう。
私が一度目の挑戦で敗退した原因は、天候不良も大きいですが、残雪による道迷いもあって時間が足りなくなりました。
2度目の挑戦では、たとえ夜になっても行動し続けるのを想定内としてトレーニングを積みました。
必要な集中力
マッターホルン登山における8時間行動中の多くは、手と足をフルに使っての岩登り(下り)になります。
一挙手一投足に集中して、確実に登っていく必要があります。
万が一浮石を掴んでしまったり、足を滑らせてしまったら、1,000m下まで真っ逆さまです。
たとえ【ガイド付き登山の場合】や【数名のパーティーを組んだ場合】でも、自分が滑落すればガイドや仲間もろとも谷底へ落ちる可能性があります。
この写真のように、ロープで繋がれているとはいっても、同時に登っていく時間もたくさんあります。
ガイド付きだから絶対に安全というわけではありません。
要所にこのような支点があるので、自己確保(安全な支点に自分のロープを括りつけること)をすることになりますが、その際も集中力が切れて操作を誤ると危険です。
高山病予防に必須な高度順応
マッターホルンの標高は4,478mあります。
富士山の標高3,776mよりさらに706mも高いのです。
高度に対する適応能力は個人の体質によってかなりばらつきがあり、体力のあるなしとはまた別物です。
普段からランニングなどをして体力に自信があっても、高山病の障害が出る人はたくさんいます。
うまく高度順応が出来ないと、思うように動けなくなって体力の消耗が激しくなるし、無理を通して登り続ければ肺水腫などの命に関わる危険性もあります。
私も高度順応は苦手で、その時の体調にもよりますが、標高3,000m以下でも頭が痛くなったり、息切れが始まることもあります。
マッターホルンに登頂出来たときも、天候の関係で高度順応のための時間が取れずに苦しみました。
技術や体力面では一切不安がないようにトレーニングをしてきたつもりでしたが、高山病により息が切れて力が入らなくなるし、頭痛や寒気もかなりありました。
マッターホルン登頂に必要な技術
マッターホルンを登る際に必要な技術は、登山スタイルで大きく変わってくるので、全てに共通する技術を紹介した後に、それぞれの場合に分けても書いていきます。
全てに共通する技術
ヘッドライトでの歩行
マッターホルンを登る際、多くは中腹のヘルンリヒュッテ(hornlihutte)に一泊して、翌朝日の出前から行動を始めます。
日頃からヘッドライトでの登山に慣れている人なら問題ありませんが、慣れていないと遠近感がうまくつかめなかったり、足元が陰になって歩きにくかったりします。
ガイド無しの場合は、ヘッドライトの灯りのみで登る時間帯のルートファインディングはさらに難しくなるので注意が必要です。
岩登りの技術
一般的にマッターホルン登山に必要な岩登りの技術は、RCCⅡグレードでⅢ級と言われています。
RCCⅡグレードについては以下の通りです。
Ⅰ級:まったく易しい(三点支持不要)
Ⅱ級:易しい(三点支持要す)
Ⅲ級:やや難しい(ロープによる確保を要す)
Ⅳ級:難しい(やや高度なバランスを要す)
Ⅴ級:非常に難しい(高度なバランスを要す)
Ⅵ級:極度に難しい(極度に微妙なバランスを要す)
正確には、マッターホルンのルートの中には、Ⅳ級に該当する箇所もありますが、そういう箇所には太い固定ロープが張ってありますし、ルート全体を見ればほとんどはⅠ級~Ⅱ級以内でおさまります。
固定ロープを登る際には、腕力だけに頼らずに、しっかりと足の力を使って登っていくことが重要です。
多少なりともボルダリングやフリークライミングを経験していれば、技術的に難しくて登れないということはまずないと思います。
特別難しくは無くても、それが何時間も続くとミスも起きやすくなります。
3点支持で確実かつスピーディーに登っていくトレーニングを積んでおきましょう。
アイゼンでの歩行(登り)
マッターホルンは真夏でも積雪になることが良くありますし、頂上付近の雪田は一年中残ります。
12本爪でのアイゼン歩行技術は、どんなメンバーで登る場合でも必須の技術です。
4本や6本の軽アイゼンは論外です。
先ほどの岩登りの技術とも関係してきますが、残雪の状況によっては、アイゼンを装着したまま岩登りをする可能性も大いにあります。
登山靴ならすいすいと登れた岩場も、アイゼンを装着して登るとなると途端に難しくなるので注意が必要です。
この写真は2017年の7月27日で、マッターホルン登山としてはベストシーズン真っ只中ですが、ヘルンリヒュッテからわずか30分程度のところからすでに膝下程度の積雪がありました。
場合によってピッケルの技術
ガイド付き登山の場合は、ガイドしかピッケルを使わないこともありますが、ガイド無しの場合はほぼ確実に頂上付近の雪田でピッケルを使うことになります。
雪が多ければ、もっと前から使うことも考えられます。
アイゼンを装着しての岩登りというだけでも難しくなるのに、さらにピッケル操作も加われば、気を付けなければいけないことが増えて、集中力もさらに必要になってきます。
ガイド付き登山の場合
ガイド付き登山の場合は、常にロープに繋がれているので、余程のミスをしない限りは安全です。
ルートファインディングの技術やペース配分を考える必要もありません。
技術面では先ほど挙げた【ヘッドライトでの歩行】【岩登りⅢ級】【アイゼンでの歩行(登り)】がしっかりと出来ていれば、問題ありません。
もし日本人以外のガイドを雇うならば、最低限のコミュニケーションが取れる英語力は必要です。
数名のパーティーを組んだ場合
パーティーを組んだ場合には【ルートファインディングの技術】【確実でスピーディーなロープ操作】が必要になってきます。
ルートファインディング
マッターホルンの登山ルートは、稜線上を辿るというより、東側の斜面と稜線を行ったり来たりしながら高度を稼いでいきます。
はっきり言って、初見で一度もルートを外さずに登るのはかなり難しいです。
下山時は崖の先が見えないので、ルートを見分けるのがさらに難しくなります。
日本の登山道のように、目印がたくさんついたルートしか歩いたことがないメンバーしかいないなら、迷わずに登頂するのはまず不可能です。
稜線の左側に、うっすらと積もった雪の道しるべが出来ているのが分かりますか?
こういうヒントを見逃さずに正しいルートを登っていかないと、すぐに行き詰まってしまいます。
ロープ操作
ロープ操作は、人数が増えれば増えるほど時間がかかってしまうので、注意が必要です。
疲れや高山病によって、動きが鈍くなったり、操作が雑になりやすいです。
ある程度の岩場なら、いちいち支点で確保せずに、同時登攀で登らないと時間がどんどん過ぎていってしまいます。
その他の技術
【ルートファインディングの技術】【確実でスピーディーなロープ操作】以外にも、【ペース配分】や【仲間との意思疎通】といった、通常の登山でも不可欠な要素を忘れてはいけません。
パーティーを組んだ場合によくあるミスをいくつか挙げておきます。
これらは、いつも一緒に登っているような間柄でこそよく陥りがちなミスです。
マッターホルン登山だけに限らず、日頃から気を付けておきたいポイントですね。
ソロの場合
ソロの場合は、今まで説明してきた要素を、すべて一人で判断してこなす技術が必要です。
今辿っているルートが正しいのかどうかを誰かと相談することも出来ませんし、難しく感じる箇所もガイドや仲間のロープ無しで登らなくてはいけません。
登る技術はもちろんですが、不安と闘う精神力や冷静な判断力も欠かせません。
よほどのこだわりがないのなら、一人で登ることはおすすめしません。
まとめ
マッターホルン登山の難易度について【ガイド付き登山の場合】【数名のパーティーを組んだ場合】【ソロの場合】に分けてそれぞれ紹介しました。
マッターホルンは固定ロープもたくさんあるし、比較的易しいと言われていますが、それはあくまでアルパインクライミング的な視点で見ればという意味で、日本のきちんと整備された目印だらけの一般登山道とは比較出来ません。
それでも、しっかりとトレーニングをして挑むことで、一般の登山愛好家の方でも十分に登頂のチャンスがあります!
最後は好天を味方にする「運の強さ」も必要になってきますが、あなたがマッターホルンを目指す上でのひとつの参考となれば幸いです。
次回は<マッターホルン登頂に向けた具体的なトレーニング法(山行例)>を紹介します!
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